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​水の庭​

Prelude IV​

4.
旧制中学や旧制の兵学校の予備校であるような進学校とは違い、詰襟の学ランに制帽というような軍事色は一切無い代わりに、フランスのカトリック系の修道会が建てた大学の予科出身で、ヨーロッパ被れの保守主義的なこの学校は、詩人を第一に優先する。だから結月は生き延びられている。逆に、工学者はこの土地には似合わない。珍しいことにこの学校では理系は排斥されており。文学系のトップクラスの方がより伝統的で高等とされており、理学系の特進コースにあたるものは最近の要請によって作られた。国際バカロレアにも対応しており、留学の名の下に日本の受験を避けてイギリスやカナダの大学に逃げる者たちがたくさんいる。この学校で求められるのは文化的であることである。それはフランスの官僚選抜制度によく似ている。第二外国語は必修である。通常より遥かに多くの読書量、洗練された言語的な表現感覚が求められる。それは残念ながら一世代の努力では身に付かないものである。この学校が欲するのは秀才ではない。試験ができなくても然るべき家庭の出身者ならば入学することができる。数学が0点でも文学が100点なら補欠合格になる。帰国子女でなくても当たり前に英語は喋れなければならない。外国語を喋る度胸の無い者は去れ。それ以前に努力しなければ英語を身に付けられないような愚図が、どうして社会で活躍できようか。帰国子女でなくても英語は生まれつき喋れるのである。始めから物理学ができていなければならない。どうして息を吸うように学問ができないのか。なぜ試験にそんなに悪戦苦闘するのか。この学校の者は努力を識らない。すべては始めから判っていることだからだ。なぜ電車に乗る? なぜ自転車に乗る? 運転免許なんか要らない。人生の中で、運転手のつかないような羽目になるという心配をしたことがないからだ。
世の中には、途方も無い金持ちがいる。
それも結構いる。庶民の想像する数倍、いや、倍の倍ほどはいるものだ。

公開日:2026年5月9日

Author

天羽 柊
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